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広島地方裁判所福山支部 昭和51年(ワ)282号 判決 1982年8月20日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し金八〇万円及びこれに対する昭和五一年七月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一) 本件訴を却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  本案の答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告(以下「原告会社」という。)と被告とは、昭和五〇年六月、福山市引野町五丁目四七番の土地及び同地上の建物(以下右土地及び建物を単に「本件物件」という。)に関して、賃料を月額金三八万円、期間を同月から昭和五一年五月三一日まで、敷金を金八〇万円と定めて賃貸借契約(以下単に「本件契約」という。)を締結し、これに基づいて原告会社は被告から本件物件の引渡を受け、また被告に対し敷金八〇万円を交付した。

2(一)(1) 本件契約は原告会社とその取締役である被告との間の契約であるところ、昭和五一年二月二三日開催された原告会社の取締役会(同取締役会については、被告は特別利害関係人として議決権を行使し得ず、また招集権もない。)の決議に基づき、原告会社の代表取締役である佃勇(以下単に「佃」という。)は、同年六月一日、被告との間で本件契約を合意解約し、同日被告に本件物件を明渡した。

(2) 原告会社における代表権が佃に属する理由は次のとおりである。

(イ) 佃は、昭和五〇年五月三一日開催された原告会社の株主総会における決議によつて取締役に選任され、同年八月一一日開催された原告会社の取締役会における決議によつて代表取締役に選任され、これに就任するに至つたものである。

(ロ) 仮に(イ)の株主総会決議が存在しないもの(無効のもの)であつたとしても、佃は、昭和四七年二月三日設立された原告会社の当初の取締役(任期一年)であるが、原告会社においては右設立後役員選任決議が為されていないので、当初の取締役の任期の満了する昭和四八年二月三日以降においても、引き続いて取締役の権限を有するものであるところ、昭和五〇年八月一一日開催の原告会社の取締役会(取締役の権限を有する者の会議)の決議によつて従前の代表取締役であつた被告が解任され、原告が代表取締役の権限を有する者に選任されたので、これに就任したものである。

(3) 昭和五〇年八月一一日開催の原告会社の取締役会における決議は次のとおり有効である。

原告会社の定款一八条は、取締役会の招集権限は社長にあるが、社長に事故あるときは専務または常務またはその他の取締役が招集する旨、また取締役会の決議事項について特別の利害関係ある者は事故あるものとみなされる旨、を定めているところ、被告が原告会社の代表取締役(社長)として原告会社を運営するにあたり対外的に信用を失墜させたことから、被告を代表取締役から解任し、新たに佃を選任することを決議事項とする取締役会を開催することとなつたが、被告には、右決議事項につき利害関係があるところから事故あるものとみなされ、右取締役会につき招集権がないところから、取締役である佃が右取締役会を招集し、昭和五〇年八月一一日取締役会が開催されたものであるから、同取締役会における決議は有効なものである。

(二) 仮に昭和五一年六月一日当時佃に原告会社の代表権がなかつたとしても、次のいずれかの理由により、本件契約は有効に合意解約された。

(1) 佃は、その当時、外見上代表取締役の地位に在つたことが明らかであるから、民法上の表見代理、または商法二六二条の表見代表取締役として、佃の行為によつて原告会社に法的効果が生じたものというべきである。

(2) 被告が、その当時佃に代表権のないことを知りながら、本件契約を合意解約したものであつたとしても、原告会社は、右合意解約に基づいて本件物件を被告に引渡し被告がこれを受け取つて以来、本件物件を使用していないこと、また昭和五一年七月一九日内容証明郵便により被告に敷金返還請求をしたこと(3参照)、からすれば、原告会社は佃の行為を原告会社の代表者の行為として追認したものである。

3  原告会社は、昭和五一年七月一九日、内容証明郵便をもつて被告に対し敷金八〇万円の返還を請求した。

4  よつて原告会社は被告に対し敷金八〇万円及びこれに対する敷金返還請求の日の翌日である昭和五一年七月二〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二1  本案前の被告の主張

本件訴は次の理由により、不適法として却下さるべきである。

佃は、商業登記簿上、昭和五〇年五月三一日原告会社の取締役に選任された旨記載されている。しかしながら、同日開催されたとする原告会社の株主総会は招集手続が全く為されていないものであり、取締役選任決議の存在しないものであるから、佃は取締役ではなく、従つて佃が取締役として招集し、同年八月一一日開催された原告会社の取締役会は、招集権のない者の招集によるものであるから、同取締役会において為された被告を原告会社の代表取締役から解任し、佃を同代表取締役に選任する各決議は無効のものである。それ故、佃が代表取締役として招集し、昭和五二年二月二七日開催された原告会社の取締役会は、招集権のない者の招集によるものであるから、同取締役会において為された本件訴訟について原告会社を代表する者として佃を選任した決議は無効のものである。

そうすると、佃には原告会社を代表して本件訴訟を追行する権限はなく、本件訴は不適法なものとして却下さるべきである。

2  本案前の被告の主張に対する原告の答弁

佃が原告会社の代表取締役であることは請求の原因2(一)(2)(イ)及び(3)各記載のとおりである。

そしてまた、原告会社は、資本の額を八〇〇万円とする株式会社であるところ、佃が代表取締役(社長)として招集し、昭和五二年二月二七日(本件訴訟の提起後)開催された原告会社の取締役会において、原告会社の取締役である被告に対する本件訴訟について原告会社を代表する者として佃を選任したものであるから、佃が原告会社の代表者として為した訴訟行為は追認され提訴当時に遡つて効力を生ずることとなつた。

右のとおりであるから本件訴は適法のものである。

三  請求の原因に対する答弁

1  請求の原因1の事実は認める。

2(一)(1) 請求の原因2(一)(1)の事実は否認する(但し、原告会社は本件物件から退去している。)。

(2)(イ) 請求の原因2(一)(2)(イ)の主張は争う。

昭和五〇年五月三一日開催の原告会社の株主総会については招集手形が全く為されていなかつたので、同総会における決議は存在しないものであり、また昭和五一年二月二三日開催の原告会社の取締役会における決議は代表権のない佃の招集によるものであるから無効のものである。

(ロ) 請求の原因2(一)(2)(ロ)の主張は争う。

任期満了後の取締役、代表取締役は、後任の取締役代表取締役が選任されるまでの間、その職務を担当するものであるに過ぎず、代表取締役の解任、本店の変更、新本店開設についての賃貸借契約の締結、定款変更等の通常の業務の範囲を越える法人の基本そのものの変更などを為し得ないものである。

(3) 請求の原因2(一)(3)の主張は争う。

代表取締役解任を決議事項とする取締役会においては解任の対象となつた代表取締役は特別の利害関係ある者ではなく、従つて原告会社の定款一八条所定の事故あるものではないので、昭和五〇年八月一一日開催の原告会社の取締役会を招集する権限は佃にはなく、従つて同取締役会における決議は無効である。

(二)(1) 請求の原因2(二)(1)の主張は争う。

(2) 請求の原因2(二)(2)の主張は争う。

3  請求の原因3の事実は争う。

第三  証拠(省略)

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